東大ら,GaMnAsのミクロな強磁性発現メカニズムを解明

東京大学の研究グループは,日本原子力研究開発機構,高輝度光科学研究センター,広島大学との共同研究で,大型放射光施設SPring-8の東京大学放射光アウトステーションビームラインBL07LSUを利用して,マンガン(磁性元素)の電子状態を高精度で決定することにより,GaMnAsのミクロな強磁性発現メカニズムを明らかにすることに成功した。

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スピントロニクスでは,希薄磁性半導体が注目を集めている。希薄磁性半導体とは,半導体の持つ電気的な性質と磁性材料が持つ磁石の性質を併せ持った物質で,その代表に砒化ガリウム(GaAs)に数%マンガン(Mn)を添加したGa1-xMnxAs(GaMnAs)がある。

GaMnAsは比較的高温で磁石としての性質(強磁性)を示すことから,スピントロニクス材料としての実用化が検討されている。しかし,強磁性が発現するメカニズムについては未だに決着がついておらず,色々なモデルが提唱されている。

研究グループは,軟X線吸収・発光分光を用いてGaMnAs中のマンガンの電子状態を調べた。従来のものより一桁高いエネルギー分解能を持つ軟X線発光分光装置を用いて精密に分析したところ,得られたスペクトルは高分解能の測定にも関わらず,滑らかな山のような形状を示した。この結果は孤立して存在しているマンガンでは予想されないもので,砒化ガリウムとマンガンの分子軌道がよく結合していることを示唆している。

次に研究グループは,実験で得られた軟X線発光スペクトルを理論モデルによるシミュレーションの計算結果と比較した。その結果,マンガンが二価であるZener p-d交換モデルよりも,マンガンが三価である磁気ポーラロンモデルに近い電子状態となっていることが示唆された。これにより,磁性元素であるマンガンの価数と軌道の結合を実験と理論で検証し,GaMnAsにおける強磁性を正しく説明するのは磁気ポーラロンモデルであることを明らかにした。

この結果は,GaMnAsの高性能化や,理論モデルによる希薄磁性半導体の新たな物質設計に役立つと期待される。また,高感度な検出器と高輝度光を用いた高精度な軟X線発光分光を利用して,マンガンなどの磁性元素を含む希薄磁性半導体の電子状態を明らかにすることで,スピントロニクスの更なる発展が期待される。

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