幅広い応用が期待される,NTTの光学結晶「KTN」

NTTは,電圧をかけることで透過する光の方向を制御することができる光学結晶,タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3:KTN)の研究をしてきた。2003年には光散乱を抑えた結晶の成長に成功しており,現在では大型化,高品質化も進んで,産業用途として供することが可能になってきている。

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大型結晶も成長可能になった

当初は通信用デバイスに応用する目的で研究が進められてきたKTNだが,最近では他の産業への応用も積極的に進められている。その一つが医療応用だ。

NTTはNTT-AT,浜松ホトニクスと協力して,昨年1月にKTNを応用した波長掃引型OCT(Swept Source Optical Coherence Tomography: SS-OCT)を発売した。OCTとは,光をプローブとする医療画像診断の一種で,生体表皮から近赤外光を入射し,表面近傍から戻ってくる反射光を検出することで,表皮下1~2mmの生体組織の立体構造を,高分解能で観察できる。

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OCTシステム:手前が光源

これは通信デバイス技術の医療分野への適用を目指すNTT-ATが,NTTが開発したKTNの製造技術と,その結晶を用いた高速波長可変レーザ技術を応用し,OCT用の波長掃引光源として製品化したもの。NTT-ATと医療デバイスの製造販売で実績があり,世界的な販売網を持つ浜松ホトニクスがOCT装置としてまとめた。

製品化した波長掃引光源は,リットマン-メトカフ(Littman-Metcalf)型と呼ばれる外部共振器型を採用している。レーザの中心波長は冠動脈検査用のOCTで用いられている1.3μmで,これを±50μmの幅で掃引する。従来は掃引にガルバノミラーを用いていたが,機械的に制御するため動作速度は100kHzが限界であった。

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リットマン-メトカフ型外部共振器の構造

NTT-ATは,ガルバノミラーの代わりにKTN光偏向素子(12×34×34mm)を配置し,コンパクトな構造として最適化した。KTNは電気光学効果によって偏光を制御するので,ガルバノミラーの倍となる200kHzの高速動作に加え,広い波長掃引幅,十分なコヒーレンス長を実現している。

高速動作するOCTにより,検査時間は半減し患者の負担も軽減する。また同じ時間で検査すれば2倍の画像撮影が可能になり,この画像を積算することで,よりノイズの少ない高精細画像が得られるので,医療画像診断の精度も格段に向上することが期待できる。

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X,YにKTNを組込むことで2次元走査が可能

今後NTT-ATでは,眼底検査OCTで普及が期待される1.05μm帯の光源をはじめとするラインナップ拡充を目指すとしている。また,KTNを用いた光スキャナは,レーザ加工機やレーザディスプレイのキーデバイスとしても高いポテンシャルを秘めており,今後の応用が期待される。