北大,α9 インテグリンによる炎症の所属リンパ節からのリンパ球移出誘導の仕組を解明

北海道大学遺伝子病制御研究所特任助教の伊藤甲雄らは,リンパ管内皮細胞上の細胞膜貫通型タンパク質であるα9 インテグリンによる炎症の,所属リンパ節からのリンパ球移出誘導の仕組みを明らかにした。

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α9 インテグリンはリンパ管内皮細胞に発現し,その遺伝子欠損マウスはリンパ管の弁の機能異常を示して,出生後早期に死亡することからリンパ管の機能におけるα9 インテグリンの重要性が推測されている。

また,多発性硬化症などの自己免疫疾患は,所属リンパ節内でT 細胞が抗原を認識することによって活性化し,標的組織に到達することで病気を引き起こすと考えられている。リンパ節の「出口」にある髄洞・皮質洞リンパ管内皮細胞はα9 インテグリンを発現しているが,その役割は明らかではなかった。

そこで研究グループではリンパ管内皮細胞上のα9 インテグリンの機能解析を行ない,髄洞・皮質洞近傍にはα9 インテグリンに対する結合分子の一つ,テネーシンCが存在しており,これらの相互作用を抗体阻害することによってCD4 T 細胞の細胞移出が抑制され,炎症細胞が標的器官に到達できず,所属リンパ節に留まることを明らかにした。

さらに,マウス胎児から単離したリンパ管内皮細胞を用いて,リンパ管内皮細胞上のα9 インテグリンの役割を検討した結果,テネーシンC で刺激することによってリンパ節からの細胞移出に重要な因子であるスフィンゴシン1 リン酸(S1P)の分泌が誘導されることが明らかになった。さらに抗α9 インテグリン抗体を多発性硬化症の実験モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に予防的投与を行なうことによりEAE 症状が軽減されることが分かった。

これらのの成果はα9 インテグリンを標的としてリンパ球の動態を調節することによる,炎症性疾患の新規治療法に繋がる可能性を示すもの。全身のリンパ球循環すなわち免疫監視を保ちながら,抗原認識した炎症細胞の標的器官への到達を妨げるといった副作用の少ない新しい炎症疾患の治療法として期待される。

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