東大と東工大,プラズマ処理技術によりクラゲ幼生の着底を制御することに成功

東京大学大気海洋研究所 元特任研究員の都丸亜希子氏と同准教授の浜崎恒二氏らは,東京工業大学准教授の沖野晃俊氏らとの共同で,プラスチック(ポリカーボネート)をモデル材料としてクラゲの幼生の着底実験を行ない,温度制御が可能な大気圧プラズマ装置を用いてプラスチック表面を親水化することにより,プラヌラのプラスチック表面への着底率が大きく低下することを見出した。

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ミズクラゲは,卵からかえった幼生(プラヌラ)が浮遊生活をし,まもなく貝殻や岩などの自然由来のものだけでなく,海岸部のフロートや桟橋などの人工構造物に着底し,イソギンチャク様の形のポリプに変態する。このポリプは無性生殖をするため,どんどん数を増やしその後子クラゲ(エフィラ)を海水中に放出する。したがって,プラヌラの着底を防ぐことによってクラゲの大発生を制御できると期待されている。

これまでに,ポリプは漂流・漂着ゴミとして知られ,また海洋構造物などにも使われているプラスチックにくっついていることが報告されていた。また,物質表面の親水性の有無がプラヌラの着底基質の選択に関係するという報告はあったが,親水性の程度を変えるために異なる素材を使っていたり,物質表面の物理的な構造変化をさせたりしていたため,結果が一定せずその効果は不明だった。

研究グループは,プラヌラの着底基質としてプラスチックとその表面の親水性に着目。同一素材でかつ物理的な構造を変えることなくポリカーボネート(PC)板表面の親水性の程度を変える方法として,大気圧プラズマの技術を用いた。

表面処理に用いた装置は,−90から150ºCまで温度を制御できるためプラズマ特有の熱のダメージをPC板に与えない。実験の結果,二酸化炭素,窒素,酸素のいずれの気体を用いたプラズマ処理でも,PC板の表面の物理的な構造を変化させることなく,親水性の程度を変えることに成功した。

このプラズマ処理をしたPC板を用いてプラヌラの着底実験を行なった結果,処理前のPC板には1m2あたり40万個体の着底が見られたのに対し,親水化したPC板表面への着底はその半分から最大で5万個体にまで抑制されることがわかった。この成果は,クラゲ大発生のメカニズム解明やクラゲ大発生を防ぐための新たな技術開発につながると期待される。

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