原研,ナノスケールの極薄磁石の向きを垂直にそろえる新機構を発見

日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター副主任研究員の家田淳氏,同センター長の前川禎通氏は,米国マイアミ大学物理学科教授のスチュワート・バーンズ氏と共同の研究グループにより,厚さわずか数原子層からなる極薄磁石の磁気の向きを,薄膜面に対して垂直に保持する新しいメカニズムを理論的に見出した。

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ハードディスクドライブ(HDD)や磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)に代表される記憶デバイスは,磁石の向きで“0”と“1”の情報を記憶している。より多くの情報をより小さな領域に記憶するには,情報を保持する一つ一つの磁石を極限まで小さくする必要がある。この要請を満たす新材料として,磁石の向きを膜面垂直に揃えた「垂直磁化膜」が注目を集めており,そのメカニズムの解明が求められていた。

今回,研究グループは,「ラシュバ効果」と呼ばれる,金属の表面ごく近傍にのみ生じる電場が原因で発現する特殊な磁場の存在に新たに着目。これまで,この効果による磁場は,常に「膜に水平方向」に働くため,磁石を膜に垂直に揃える直接の原因として取り上げられることがなく,十分に検討がされていなかった。

そこで,まず極薄磁石とラシュバ効果の大きな異種材料を貼り付けた状況を想定し,異なる性質を示す金属磁石の理論とラシュバ効果の理論を同時に満足する新しい解を導出した。次に,その解を用いてラシュバ効果の寄与を足し上げて,磁石の向きが薄膜面に垂直の場合と,薄膜面に水平の場合のエネルギーを比較した。その結果,磁石の向きが膜に垂直の場合の方が全体として磁気の大きさが強化され,より安定化されることを見出した。

この成果は,電場効果を含めた垂直磁化膜の材料開発に基礎的な設計指針を与えるもので,史上最強のネオジム磁石をも凌駕するナノスケールの極薄磁石の実現への可能性を切り開くもの。また,ナノスケールの極薄磁石による不揮発性磁気メモリの超高密度化に寄与し,それによる待機電源が不要な電子機器の実現に大きく貢献することが期待される。

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