東北大ほか、光操作の新技術によってグリア細胞の新しい機能を発見

東北大学大学院医学系研究科准教授の松井 広氏と生理学研究所等のグループは、細胞活動を光で自在に操作する新技術を用いて、脳のグリア細胞(神経系を構成する神経細胞以外の細胞)の新しい役割を発見した。具体的には、マウスにおいてグリア細胞の活動を光で操作する技術(光遺伝学)を新たに開発。脳でのグリア細胞の新規の役割を明らかにした。これらの知見は、脳梗塞などの新たな治療につながるものと期待されるもの。

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今回の研究では、(1)グリア細胞から神経伝達物質として働くグルタミン酸が放出され、学習等の脳機能に影響を与えていること、(2)グリア細胞の異常な活動が過剰なグルタミン酸の放出を引き起こし、その結果、脳細胞死が生じることを明らかにした。

また、これまでに、脳虚血時には組織のアシドーシス(酸性化)が起こるとともに、どこからか過剰なグルタミン酸が放出されることは分かっていたが、今回、(3)グリア細胞内の酸性化がグリア細胞からのグルタミン酸放出の直接の引き金となるという、新規のメカニズムも発見した。さらにこの研究では、(4)光操作技術でグリア細胞をアルカリ化するとグルタミン酸放出が抑制され、虚血時における脳細胞死の進行を緩和できることが分かった。

特定の種類の神経細胞が脳の機能や心の働きにどう影響するのか、ダイレクトに因果関係を調べることができる光遺伝学は8年ほど前に開発され、瞬く間に全世界の研究者が利用するに至った。今回の研究は、この技術をグリア細胞に適用するという、他の研究者がほとんど試みなかったことに挑戦したもの。また、細胞を興奮させるのに使うチャネルロドプシン2は水素イオンを通すので、光をあてると細胞内が酸性化することも見出した。

一方、光を当てると細胞の内から外へ水素イオンを汲み出す機能を持つアーキオロドプシンを使うと、細胞内がアルカリ化することも分かった。この二つは細胞内のpHを操作するツールとしても使えることが分かった。これによって、グリア細胞内酸性化がグルタミン酸の放出の直接の引き金になっていることを発見した。

細胞機能に影響するシグナルとしては、カルシウムイオンや膜電位ばかりが注目されてきたが、細胞内pHというものが、もうひとつの重要なシグナルであるということが、この研究の新たな発見。光遺伝学の応用分野が、脳科学に留まらず、もっと広く他の医学・生物学研究にも広げられる可能性も示唆された。

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