北大など,X線レーザで生きた細胞をナノレベルで観察することに成功

北海道大学電子科学研究所・教授の西野吉則氏,助教の木村隆志氏,理化学研究所放射光科学総合研究センター・リームリーダの別所義隆氏,高輝度光科学研究センター・チームリーダの城地保昌氏ら研究グループは,X線自由電子レーザ(XFEL)施設「SACLA」を用いて,生きた細胞のナノレベルでの観察に成功した。研究には,この他に東京薬科大学や共和化工が参加した。

電子顕微鏡やX線顕微鏡を用いて生きた細胞をナノメートルの分解能で観察することは,これまで不可能だった。観察に用いる電子線やX 線の照射によって,細胞が死んでしまうためだ。今回研究グループは,10フェムト秒以下という極めて短いXFEL の発光時間を利用して,細胞が放射線による損傷を受ける前の一瞬の姿を捉えることに成功した。観察には,独自開発したパルス状コヒーレントX線溶液散乱(PCXSS)法と名づけた手法を用い,細胞内部のナノ構造が高いコントラストで可視化した。

PCXSS
パルス状コヒーレントX線溶液散乱(PCXSS)法の模式図

PCXSS法は,自然な状態にある溶液試料を測定できるのが特徴で,生物試料をマイクロ液体封入アレイ(MLEA)チップと呼ばれる,研究グループが独自に開発をしたデバイスに入れることで実現する。MLEAチップ内に封入された生物試料は,冷却,染色,切断されることなく,真空に晒されることもないため,細胞が生きている状態を保ったまま,XFELが照射できるという。

マイクロ液体封入アレイ
マイクロ液体封入アレイ(MLEA)内に細胞を生きたまま封入できることを示す実験結果
X線回折パターン
生きているMicrobacterium lacticum細胞1匹に,XFELを1発当てた際のコヒーレントX線回折パターン
生きてる細胞画像
XFELを用いて計測したコヒーレントX線回折パターンをデータ解析して得た,生きているMicrobacterium lacticum細胞の画像

この研究により,XFEL が自然な状態にある生物試料を観察できる優れた能力を持つことが示された。今後,細胞生物学へのさらなる応用が期待できるとしている。また,さらに分解能を向上させることにより,自然な状態にある生体分子のナノ構造の解明など,医学上重要な応用への期待も高まっている。

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