理研、100年ぶりに脳の主要な記憶神経回路の定説を書き換え

理化学研究所は、マウスを使い、脳の記憶形成の中枢である海馬の部位で最も解明が遅れていた領域「CA2」を多角的な手法を使い正確に同定した。さらに、CA2を介した新しいトライシナプス性の記憶神経回路を発見し、逆に、存在すると主張されてきた回路が、実は存在していないということも証明した。

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海馬の神経回路については、1911年に神経解剖学者のラモニ・カハールらによって「トライシナプス性の記憶神経回路」が初めて発見された。その後、1934年に神経生理学者のロレンテ・デ・ノによって海馬が3つの領域(CA1、CA2、CA3)からなることが発見され、定義された。しかし、CA2は他の領域に比べて狭いため、当時の実験技術や装置ではCA2の正確な領域と記憶神経回路を決定することは困難で、その後も生物学的に正しいかどうかは検証されず、現在の教科書でもこの“古典的”な定義に基づいて解説されていた。

研究グループは、免疫組織染色法、樹状突起標識法、軸索標識法、および電気生理学などを用いた多角的かつ詳細な観察によって、CA2領域を正確に同定することに成功した。次に、領域特異的な遺伝子組み換えマウス、ウイルス標識法、光遺伝学、海馬急性スライス標本などを複合的に用いて、海馬の一部位の歯状回が直接シナプスを介してCA2に入力していることを発見した。この発見は、これまでの「歯状回はCA2に入力しない」という定説を覆すもの。

また、CA2はCA1の深い細胞層の興奮性細胞群に優先的に入力していることも分かった。これらから、カハールらが発見したトライシナプス性の記憶神経回路に加え、新しいトライシナプス性の記憶神経回路があることが分った。さらに研究グループは、2010年に他の研究グループが発表し、海馬の研究に多大な影響を及ぼした、嗅内皮質3層からCA2への直接の入力は、実は存在しないことも証明した。

脳の記憶のメカニズムには未解明な部分が多く、解明を進めるためには、脳の正確な「地図」が欠かせない。今回の発見は、新技術と既存技術を複合的に組み合わせたアプローチによる成果。今後、こうした研究アプローチによって、正確でより完成度の高い脳の地図が簡単に作られ、記憶の謎や神経系変性疾患・精神神経疾患のメカニズム解明が進展していくと期待できる。

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