産総研,表面プラズモン共鳴によって感度を高めたマイクロ流路型センサを開発

産業技術総合研究所 電子光技術研究部門 光センシンググループ 研究グループ長の藤巻真氏らは,検出対象のバイオ物質に付着させた蛍光標識からの発光信号を表面プラズモン共鳴励起蛍光増強(SPRF)機能によって強めて,対象バイオ物質の高感度検出ができるV字型の断面を持つマイクロ流路型センサ(V溝バイオセンサ)チップを開発した。

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今回,マイクロ流路の断面をV字型にすることによってSPRF機能の発現に必要な光学プリズムと表面プラズモン共鳴(SPR)励起層を,流路と一体的に構成した。具体的には,底面に光が入射するプリズム面となるようなV字型の溝のマイクロ流路により流路そのものにプリズムの機能を持たせ,流路の内面にSPR励起層として金(Au)薄膜を持った構造を考案した。

これによって,プリズム,検出用チップ,流路,と三つの部材に分かれていた構成を,一体化できた。また,センサチップ底面に励起用の光を垂直に入射すればSPRが励起されるようにV溝の頂角を設定してあるので,煩雑な入射角の調整が不要で,下方から照射される励起光に対して水平にチップを置くだけでSPRF効果が得られる。

さらに,センサの光学系を一直線上に配置して,SPRFの高感度性とマイクロ流路の簡易操作性とを併せ持つバイオセンサシステムを実現した。体内の極微量の疾患由来物質(バイオマーカー)やウイルスなどの定量検出が数µL程度の極微量試料で行なえ,臨床現場でのより正確な診断に加え,日常の健康管理にも役立つバイオセンサシステムとして貢献が期待される。

今回開発した技術を応用し,NEDOの委託事業として,パナソニック,神戸大学と共同で,鳥インフルエンザウイルス監視システム用のV溝バイオセンサシステムを試作した。平成22~23年度に実施した産総研内プロジェクトでの試作機と比べ,今回の試作機は260×180×160 mmと,体積比で約9分の1と大幅に小型化。今回の試作機の蛍光検出部には冷却CCDを採用しているが,この部分をフォトダイオードなどで置き換えることができれば,さらなる小型軽量化が達成可能。

V溝バイオセンサーは,検出対象によっては既に100 fMオーダーの検出が可能であり,多くのバイオマーカ検出においては十分な感度を実現できているが,人に感染する前の環境中(例えば室内)に存在する極微量ウイルスを検出するには,現状よりさらに3桁程度の高感度化が必要であると試算される。今後は,センサチップの製造プロセスを改良し,より理想的な形に近いV溝形状を実現し,さらにはV溝中に対象物質を濃縮させる技術も付与し,これらのニーズに応えられるような高感度化を目指す。

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