九大ら,カーボンナノチューブの電子準位を「実験なし」で決定出来る「経験式」を確立

九州大学大学院工学研究院/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)教授の中嶋直敏氏らの研究グループは,京都大学教授の松田一成氏らとの共同研究で,単層カーボンナノチューブ(SWNT)の電子準位を「実験なし」で決定出来る「経験式」を確立した。

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単層 CNT(SWNT)は螺旋度(巻き方)が異なった多くの混合物として合成され,これらはカイラリティ(n,m)SWNT で表記される。この(n,m)の値が異なると電子準位(酸化電位,還元電位,フェルミ準位,仕事関数)が異なる。研究グループは,2009 年に「その場フォトルミネッセンス分光電気化学」により(n,m)SWNT(直径 0.7〜1.1nm)の電子準位を実験的に決定できることを報告している。

しかしSWNTには,巻き方(n,m)が異なる(直径も異なる)多くのSWNTが存在し,これらの違いにより,電子準位が異なる。ところが,これらを実験的に決定できるのは,直径 0.7〜1.5nm のSWNTに限られる。直径が1.5nm より大きくなると,孤立溶解(一本一本バラバラにほどけた状態)SWNTの調製が困難なこと,また,0.7nm のSWNTは合成 SWNT の中で,存在量自体が極めて少ない,という理由で,これらの(n,m)SWNT の電子準位は「実験なし」で決定する必要がある。このためには,「経験式」が必要となる。

研究グループはまず,「その場フォトルミネッセンス分光電気化学」が適用できる直径が小さい(5,4)SWNTs(d=0.620nm)の電子準位を決定し,以前決定した18種の(n,m)SWNT のデータと合わせ,直径0.5~2.5nmの電子準位を決定できる「経験式」を導き出すことに成功している。

これを用いて決定した 220 種のmod=1もしくはmod=2(巻き方のファミリーパターン)の(n,m)SWNTの酸化電位(Eox),還元電位(Ered)及びフェルミ準位(EF)をSWNTの直径に対して示したデータを図に示している。また,導き出した「経験式」を計算化学による理論的な値と比較し,「経験式」の優位性を明らかにした。

電子準位は,SWNTの基礎基盤特性であり,この研究成果は,カーボンナノチューブ科学に大きな学問的寄与を成すもの。電子準位が異なると(n,m)SWNT の物性(電子的性質など)が異なってくる。電子準位を知ることによって,CNT の様々な分野(エネルギー,エレクトロニクス,ナノ材料,複合材料など)への利用/応用に対して,目的の材料/システムのデザイン,構築をより適切に,精密に行なうことが可能となる。

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