東大とキリン,自ら細胞の中に入り込む細胞用のミクロ温度計を開発

東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻助教の内山聖一氏とキリンのグループは,細胞内温度計測用の蛍光プローブを細胞への導入が簡単に行なえるものへと改良し,世界で初めて酵母細胞内の温度計測を実現した。

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研究グループは酵母細胞に導入できるプローブの開発を目指して,カチオン(正電荷)性ユニットを組み込んだ新たなプローブを合成した。この蛍光プローブは,温度変化を感知する感温性ユニット(NNPAMあるいはNIPAMユニット),細胞への自発的な導入に必要なカチオン性ユニット(APTMAユニット),蛍光シグナルを発する蛍光性ユニット(DBD-AAユニット)で構成される。

このカチオン性ユニットを組み込んだプローブは細胞懸濁液に混ぜるだけで酵母細胞内に10分以内に導入された。特に合成したいくつかのプローブのうち,NN-AP2.5とNN/NI-AP2.5と名づけたプローブは,それらの蛍光寿命が細胞内の温度変化に対して敏感に応答し,最大で0.09℃ものわずかな温度差を検出できた。

さらに,このNN-AP2.5とNN/NI-AP2.5をほ乳類浮遊細胞であるMOLT-4細胞(ヒト急性リンパ芽球性白血病T細胞)と混合したところ,酵母細胞と同様に10分でプローブが導入され,細胞内温度の上昇に従って蛍光強度や蛍光寿命が変化することが確認できた。接着細胞であるHEK293T細胞(ヒト胎児腎由来)を使用した場合でもプローブの自発的な導入と,細胞内での温度応答が観測された。

以上より,開発された蛍光プローブは酵母細胞を始め,ほ乳類細胞にも利用できる極めて汎用性の高い温度計測のツールであり,細胞懸濁液に混ぜるだけで導入可能な簡便さも持ち合わせた実用性の高い技術であるとしている。

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