北大,近赤外光による水の光酸化に成功,人工光合成への応用に期待

北海道大学電子科学研究所教授である三澤弘明氏の研究グループは,紫外,可視,近赤外領域の広い波長域で光電変換可能な金ナノ構造/酸化チタン電極の作製に成功し,光電変換のみならず,人工光合成系への展開を図りました。その結果,人工光合成において最も重要な水の光酸化に関して,可視光だけではなく近赤外光によって酸素と過酸化水素を発生させる系の実現に世界で初めて成功した。

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透明な半導体として知られる酸化チタン単結晶基板上に,光アンテナ構造として髪の毛の太さの1,000 分の1程度のサイズの金のナノ構造(100 nm×200 nm×30 nm)を高密度に配置した電極(作用電極)を作製し,白金電極を対極,飽和カロメル電極を参照電極として,光電気化学測定を行なった。

その結果,金ナノ構造/酸化チタン電極上への光照射に基づいて紫外,可視,近赤外の幅広い波長域において光電流が観測されるとともに(光電変換),酸化チタン電極から酸素と過酸化水素が発生することが実験的に立証できた。酸素や過酸化水素の発生は,水の光酸化に基づいており,光電流量から見積もられた物質量(モル)とほぼ等量の酸素や過酸化水素の発生が観測され,いわゆる化学量論的に水の光酸化反応が進行していることを明らかにした(いずれの波長域でも発生効率が80%以上)。

原理は,金の電子が光アンテナによって効率的な集められた光子によって高いエネルギーレベルまで励起され,酸化チタンへの電子移動と形成された複数の正孔が水の酸化反応を誘起しているものと考えられる。特筆すべき点は,一般的に水の酸化反応は4 電子または2 電子反応であるため過電圧を要し,可視光照射でも容易ではないが,この研究ではエネルギーの小さい波長1,000 nm の近赤外光照射(1.24 eV)においても,水の酸化反応が進行した点。

水の電気分解は1.23 V で起こるので,この研究では極めて小さい過電圧で水の光酸化が起こることを実証したことになる。植物の光合成でさえ波長660 nm の光により水の酸化反応を行なっていることを考慮すると,この研究ではこれまでエネルギーが低すぎて使われてこなかった赤外光を有効利用し,電気エネルギーや貯蔵可能な化学エネルギーに変換可能な光-エネルギー変換系への応用展開が期待される。

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