慶大,星間分子雲中を通過する超新星衝撃波の”速度計測”に成功

慶應義塾大学大学院理工学研究科の指田朝郎氏(2012年度修士課程修了)と同理工学部物理学科准教授の岡朋治氏らの研究チームは,超新星による衝撃波の膨張速度を精密に計測することに成功した。これは,太陽系から約3キロ・パーセク(約1万光年)の距離にある超新星の残骸W44に対して電波観測を行ない,星間分子雲中を伝搬する超新星衝撃波の膨張速度を計測したもの。

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今回研究チームは,国立天文台野辺山45m 電波望遠鏡およびASTE 10m サブミリ波望遠鏡を用いて,W44 全面の高感度イメージング観測を行なった。観測するスペクトル線としては,高密度領域から放射されるホルミルイオン(HCO+)J=1-0 回転遷移輝線(89.1885 GHz)と,高温領域から放射される一酸化炭素(CO)J=3-2 回転遷移輝線(345.795 GHz)を採用した。

このように,ミリ波・サブミリ波帯のスペクトル線観測による高温・高密度分子ガスの高感度な選択的イメージングを行ない,求められた膨張速度(12.9±0.2 km/秒)と分子ガス質量(104太陽質量)から超新星爆発が星間物質へ渡した運動エネルギーを算出したところ,(1-3)×1050erg となった。この値は超新星爆発の総エネルギー(~1051)の1割から3割に達し,太陽が10~30億年かけて放射するエネルギーに相当する。

これに加えて,局所的に極めて大きな速度(>100km/秒)を持つ分子ガス成分も検出された。この速度は,分子が解離されない衝撃波速度の限界(50km/秒)を大きく上回っており,いわば「速度超過違反」と言えるもの。この超高速度成分の起源は現在のところ全く謎だが,超新星衝撃波の通過により,ここにある何らかの天体が活性化された可能性がある。

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