大阪大学,光触媒や色素増感太陽電池の効率を向上する,酸化チタンメソ結晶の簡便な合成法を開発

大阪大学産業科学研究所教授の真嶋哲朗氏は,色素増感型太陽電池や光触媒,リチウムバッテリーなどに広く利用されている酸化チタンについて,メソ結晶を簡便に合成する方法を開発した。メソ結晶とは,結晶性ナノ粒子がマイクロメートル程度に自己組織化し,三次元的に規則的に配列した超構造体。

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従来の酸化チタン結晶は,ナノ粒子が無秩序に凝集した構造をしており,電気伝導性の低下や表面積の減少など,色素増感型太陽電池の効率の低さに繋がっている。今回,真嶋氏は酸化チタンにメソ結晶を適用することで,ナノ粒子間の電荷輸送の効率が向上することを見出した。メソ結晶は,ナノ粒子同士が一定の配置で互いに接しているため電荷が効率よく移動できると考えられており,色素増感型太陽電池をはじめとするデバイスに応用することで,性能の向上が期待できるという。

これまで金属酸化物メソ結晶を作成するためには,水熱反応法やテンプレート法が用いられてきたが,いずれも手順が煩雑で合成にも時間がかかっていた。また金属酸化物の種類ごとに合成法が異なることもあり,広く利用されるには至っていなかった。

今回開発した金属酸化物メソ結晶の合成法は,ターゲットとする金属イオンと界面活性剤を混ぜ合わせて加熱するだけで,メソ結晶粉末ができるというシンプルなもの。この方法は酸化チタン以外にも酸化亜鉛,酸化銅,酸化ニッケルなど様々な金属酸化物のメソ結晶を合成できる。さらに,ガラス,シリコン,ITO膜,グラフェンオキシド基板上でこれらのメソ結晶を合成することも可能だという。

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真嶋氏は開発した方法を用いて,一辺の長さ3~5μm, 厚さ約100 nm,構成するナノ結晶のサイズ30~40nm,比表面積63 m2 g-1,細孔径5 nmの酸化チタンメソ結晶を試作した。ちなみに市販の酸化チタンでは,比表面積が大きいと言われている製品でも50 m2 g-1程度なことから,この結晶の比表面積がいかに大きいかが分かる。

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このメソ結晶の光導電性を従来の酸化チタンと比較したところ,メソ結晶の方が50倍程度高いことが分かった。また光触媒活性についても,メソ結晶の方が3倍程度高かった。高効率な粒子間電荷移動と大きな比表面積から,試作した酸化チタンメソ結晶は色素増感型太陽電池だけではなく,光触媒,リチウムイオンバッテリーなどへの応用も期待できるという。

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今後は基板上でさらに大きなサイズ(センチメートルスケール)で均一なメソ結晶膜の形成を行ない,電極基板にも応用したいという。また,現在350℃以上の反応温度を150℃以下に下げることで,プラスチック基板へもメソ結晶膜を形成できるようにし,フレキシブル太陽電池への応用についても研究を進めたいとしている。

大阪大学 真嶋研究室HP