東大,細胞内でのみ選択的に薬剤を放出できるナノチューブ型分子ロボットの開発に成功

東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻教授の相田卓三氏(理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長兼任)らは,生体内に普遍に存在するアデノシン三リン酸(ATP)という物質の量を診断し,細胞内でのみ選択的に薬剤を放出できるナノチューブ型分子ロボットの開発に成功した。

相田氏らはシャペロニンというタンパク質複合体の(1)ゲスト(変性タンパク質など)をシャペロニン内に取り込む性質,(2)ATPをエネルギー源として自身の機械的開閉運動を引き起こす性質,に着目。そして,シャペロニン内に薬剤を取り込ませ,チューブ状(1次元状)に集合させATPを添加すると,シャペロニンの構造変化が引き金となり,チューブ構造がばらばらに分解し,内包していた薬剤が放出されることを見出した。

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特に,チューブを壊すには1分子の機械的運動では不十分なため,薬剤放出が開始されるには然るべきATPの濃度が必要となる。細胞内においてATPは1−10 mM(ミリモル毎リットル)もの高濃度なのに対し,細胞外マトリックスにおいては5 µMと格段に低い。この濃度差と,上記の放出機構を利用することで,ATPの濃度を診断し細胞内にのみ薬剤を選択的に放出する分子ロボットの開発に成功した。

開発したナノチューブ型ロボットは,マウスに投与すると肝臓細胞に次いでがん細胞に多く取り込まれることが明らかとなり,ドラッグデリバリーシステムとして有望な結果が観測されている。

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