理研、 細胞膜の外層・内層の非対称性が生理活性脂質「DAG」の移動を制御

理化学研究所は、細胞膜において産生される生理活性脂質が細胞膜を横切るのは、細胞膜を構成する特定の脂質の量に依存することを発見した。これは、理研小林脂質生物学研究室 客員研究員の上田善文氏、 特別研究員の牧野麻美氏、 客員研究員の酒井祥太氏、 基礎科学特別研究員の稲葉岳彦氏、客員研究員のウラン-松田フランソワーズ氏、主任研究員の小林俊秀氏らによる研究チームの成果。

細胞を取り囲む細胞膜は、内層と外層からなる脂質二重層を基本構造としている。細胞外に向いている外層と細胞質に接している内層とでは、それぞれの層を構成している脂質が非対称に分布しているため物性が異なる。ジアシルグリセロール(DAG)は、ホルモンや神経伝達物質などの細胞外刺激によって産生され、内層および外層に存在する生理活性脂質。細胞の増殖や分化などを制御するため、がん化やアルツハイマー病との関連が指摘されており、DAGの細胞膜中の挙動が注目されていた。しかし、これまで生きた細胞での挙動はほとんど分かっておらず、主にモデル膜の実験結果に限られていた。

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研究チームは、DAGに特異的に結合する蛍光タンパク質プローブを子宮由来の培養細胞と腎臓由来の培養細胞に適用し、DAGの細胞膜外層から内層への移動(フリップフロップ)を観測した。その結果、スフィンゴミエリンという脂質を豊富に含んだ腎臓由来の培養細胞ではフリップフロップが起きず、スフィンゴミエリンが少ない子宮由来の培養細胞ではフリップフロップが起きることを見いだした。また、外層にDAGが定常的に存在することを発見し、スフィンゴミエリンを人為的に分解するとDAGが内層にフリップフロップを起こすことを明らかにした。

今回の結果は、細胞膜の内層と外層の脂質の非対称分布がDAGによるシグナル伝達を制御するという、非対称分布の生理学的意味を明らかしたもの。DAGの異常な増加は、細胞のがん化やアルツハイマーを誘導するため、スフィンゴミエリンの適切な分布の破綻が細胞内のDAGの濃度を増大させ、これら疾患を誘導する可能性を示唆している。今後、スフィンゴミエリンを中心とした代謝物質が創薬のターゲットになると期待できる。

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