JAMSTEC、日本海溝海底における震災4か月後の環境撹乱状況を確認

海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋・極限環境生物圏領域技術研究副主幹の小栗一将氏らは、山口大学、高知大学、南デンマーク大学、スコットランド海洋科学協会等と共同で、東北地方太平洋沖地震から4か月後の2011年7月、震源から110km離れた日本海溝の海溝軸の地点(水深7,553m:以下、「海溝軸」)及びそこから4.9km東に位置する太平洋側の地点(7,261m:以下、「太平洋側」)において、JAMSTECが開発したフリーフォールカメラシステムを用いて水中と海底の状況をハイビジョンビデオ撮影し、さらに堆積物コアの採取を行なった。

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取得映像を解析した結果、両調査地点において海底から30m~50mの高さまで非常に強い濁りの層が存在することが分かった。また、海溝軸の海底には生きた底生生物はほとんど見られなかった。さらに、海底には一方向に強く・継続する流れの存在が確認され、生物の死骸や魚等が、より深い方向へ運ばれるなど、これまでに報告されたような、ナマコ類が海底に見られる環境とは大きく異なった異質な状況にあることが判明した。太平洋側の海底においては、海溝軸で観察されたような強い流れは存在せず、ヨコエビなどの生物が泳ぐ姿が確認された。

海溝軸及び太平洋側の両地点から採取された堆積物については、X線CTスキャナーによる解析及びガンマ線分析装置を用いた放射性核種分析を行なった。X線CTスキャナーによる解析の結果、海溝軸で採取された堆積物の表層から深さ31cmまでは、本震や余震で生じたと考えられる乱泥流によって斜面の堆積物が移動・再堆積した「タービダイト」と呼ばれる層であることが分かった。一方で太平洋側の堆積物からは、タービダイトは確認されなかった。

ガンマ線分析装置を用いた堆積物中の放射性核種濃度を分析した結果、太平洋側で採取された堆積物の表層(深さ0~1cm)から福島第一原子力発電所事故に由来するセシウム134が検出されたが、海溝軸で採取された堆積物からは検出されなかった。

原発事故後数か月で、日本海溝の海底でセシウム134が検出された理由として、マリンスノーに吸着し、沈降したことが考えられる。この証拠として、日本海溝周辺において、震災後の3月下旬から4月上旬にかけて植物プランクトンの大発生があったことが衛星リモートセンシングで確認されており、また、本研究の航海前の緊急航海(6月)で行われたディープ・トウによる海底観察の結果、この時期に生産・沈降したと考えられるマリンスノーの集合体が日本海溝斜面の海底を覆っていたことが確認されている。

太平洋側からわずか4.9km離れた海溝軸でセシウム134が検出されなかった理由は、セシウム134が海底に沈降した後に発生した乱泥流によって、表層付近の堆積物と混合され、検出限界以下まで希釈されたためと判断される。このことは、日本海溝の斜面は本震や度重なる余震により、重力的に不安定で乱泥流が生じやすい状態にあり、また、海底環境の撹乱は余震によって維持されていたことを示唆する。

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