京大、DNAが切れていないのに発生する染色体断裂の発見

ヒトの被爆線量を推定する最も確実かつ高感度の手法は、被検者の末梢血を染色体検査することであり、検査の原理は、染色体はちぎれている部分(染色体断裂と呼ぶ)の数と過去の被爆線量とが相関することによるとされているが、このたび、医学部6回生の藤田真梨氏、医学研究科准教授の廣田耕志氏(現首都大学東京教授)、教授の武田俊一氏らの研究グループは、この原理がいつも正しいわけではないことを世界で初めて証明した。

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今回、廣田氏と藤田氏は、ヒドロキシ尿素、5フルオロウラシルなどのDNA複製を阻害する抗がん治療薬を、治療濃度で細胞に曝露したときに多数の染色体断裂が発生することを見いだした。発生した染色体断裂数を、2重鎖DNA切断を再結合することのできる細胞(野生型)と、できない細胞(遺伝子破壊細胞、変異体とも呼ぶ)とで比較。その結果、染色体断裂数が2種類の細胞の間で同程度であることを示した。この結果は、これらの抗がん剤の処理によって発生する染色体断裂は、実際には2重鎖DNA切断でないことを証明している。

今回の発見で、染色体断裂はDNAの2重鎖切断以外の原因によっても発生しうることが解明された。すなわち「染色体断裂=2重鎖DNA切断」という放射線生物学のドクマが、常に正しいわけではないことを世界で初めて解明した。

今回開発した、ちぎれたDNAを直すことができる野生型細胞とできない異変体を比較しながら染色体分析を行う手法を、より簡便にできるように改良し、国の環境化学物質の生物効果(特に変異源性)の試験に採用されることを目指す。

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